セマンティック検索の精度を左右する要素と向上のコツ

2025.11.13
セマンティック検索の精度を左右する要素と向上のコツ

1. はじめに

MS開発部の松坂です。私は普段、AIや検索性システムの開発・活用に携わっており、日々、さまざまなデータを対象とした情報検索の精度改善に取り組んでいます。

今回は「セマンティック検索」について取り上げます。セマンティック検索とは、単純なキーワード一致ではなく、文章やクエリの意味の類似性に基づいて情報を検索する技術です。たとえば、「写真をきれいに加工できるスマホアプリ」と検索したとき、「画像編集が簡単なカメラアプリ」や「初心者向けのフォトレタッチアプリ」といった表現のページも関連性が高いと判断される仕組みです。

しかし、このセマンティック検索にも課題があります。クエリの言い回しや文脈の長さによって検索精度が大きく変わることがあるのです。たとえば、同じ料理レシピを探しているにもかかわらず、「短時間で作れるチキンカレー」と「初心者向けチキンカレーの作り方」といった微妙な表現の違いだけで、返ってくる検索結果が変わってしまうことがあります。

最近では、RAG(Retrieval-Augmented Generation)の手法の一つであるセマンティック検索を活用する場面も増えており、検索精度に悩んでいる方も多いのではないでしょうか。この記事では、セマンティック検索の精度が左右される要素や、その改善のポイントについてまとめていきます。


2. 精度が変わる原因の解説

セマンティック検索の精度が変わる要因はいくつかあります。ここでは、Azure AI Search を使った具体例を交えながら説明します。

今回は以下のようにカレーに関するデータを20件用意しました。レシピやノウハウ、FAQなど、多様なドキュメントで構成されています。

2-1. ニュアンスの違い

クエリの焦点が何に置かれているかで検索結果は変わります。

たとえば、「簡単に作れるチキンカレーのレシピ」と「初心者向けチキンカレーの作り方」という2つの表現を考えてみます。どちらもほぼ同じ意味ですが、前者は「短時間で作れるか」に焦点を置き、後者は「初心者でも作れるか」に焦点を置いています。

結果の差:

  • 「短時間で作れる」に焦点を当てた場合 → 時間が短いレシピのページが上位に表示されやすい

  • 「初心者向け」に焦点を当てた場合 → 手順が詳しいページや写真付き解説が上位に表示されやすい

2-2.短文 vs 長文

短文クエリは情報量が少ないため、意味ベクトルが不安定になりやすく、精度が落ちることがあります。

  • 例: 「チキンカレー レシピ」

  • 長文にすると → 「初心者でも15分で作れる簡単チキンカレーのレシピ」

  • 結果の差:

    • 短文 → 検索結果にバリエーションが多く、関連性がやや低めのページも混ざる。以下例だと、包丁の使い方が検索上位に上がることも。

    • 長文 → 文脈が明確になり、目的に合致したページが上位に表示されやすい。下記例だと、「失敗しにくいレシピ」のように詳しい説明を含むページほど、検索結果の上位に表示されやすくなります。

 

2-3.単語選択の影響

特定の単語の有無によって、検索結果が大きく変わることもあります。

  • 例: 「簡単」「初心者向け」「短時間」「本格的」などのキーワード

  • 結果の差:

    • 「簡単」を含むクエリ → 手軽なレシピ中心

    • 「本格的」を含むクエリ → 調理工程が多く、上級者向けのレシピが上位に表示される

このようにプロンプトによって左右される点が多いです。


3. 精度向上のポイント

セマンティック検索の精度を上げるには、クエリやデータの工夫が欠かせません。ここでは、Azure AI Search を活用した実務を想定しながら、具体的なポイントを紹介します。

3-1. データ設計の工夫

検索対象となるデータの構造やメタ情報の付与は、精度向上に直結します。

  • 例: 料理レシピデータの場合

    • 「調理時間」「難易度」「対象レベル(初心者・中級者)」などのタグを付ける

    • 検索時にこれらの属性をベクトル化しておくことで、クエリとの意味的なマッチング精度が向上

  • 効果: 「初心者向け」や「短時間で作れる」といったニュアンスに合致したページが上位に来やすくなる

こちらがメタ情報を入れていない検索結果となり、内容は初心者向けではあるが本文に初心者ワードがないためスコア2.73(上から5番目)と低くなることがあります。 そして以下の図はメタ情報を設定した場合の検索結果で、スコア2.87(上から1番目)となり、検索上位に組み込めるようになってます。

3-2. プロンプトの工夫

セマンティック検索を活用する際、クエリ自体の書き方や補足情報で精度を改善できます。

  • 例:

    • クエリ: 「簡単チキンカレー」

    • 改良プロンプト: 「初心者でも15分で作れる簡単チキンカレーのレシピを探してください」

  • 効果: 長文で意図を明示することで、検索モデルの意味ベクトルが明確になり、目的に沿った結果が返りやすくなる

3-3. ベクトルプロファイルの活用

Azure AI Search では、ドキュメントやクエリをベクトルとして表現し、意味的な類似性に基づいて検索する「ベクトル検索」機能を利用できます。
このとき、ベクトルの生成方法やスコアリングの調整によって検索精度を最適化できます。

  • ベクトル埋め込みの工夫
    Azure OpenAI や他の埋め込みモデルを利用して、文脈を反映したベクトルを生成します。複数文の平均化や、重要語を重み付けしたベクトルを使用することで、クエリの意図をより的確に反映できます。

  • 類似度スコアや閾値のチューニング
    Azure AI Search の検索パラメーターで類似度スコアの閾値を設定することで、関連性の低い結果を除外し、検索精度を安定させることが可能です。

効果:
短いクエリでも意味的な一致度を高め、ノイズの少ない検索結果を得られるようになります。

ポイントまとめ

  • データに意味的なタグや構造を付与する

  • クエリやプロンプトで意図を明確にする

  • ベクトル表現や類似度調整で検索結果を精密化する

これらの工夫を組み合わせることで精度が大きく向上し、RAG やセマンティック検索を実務でより信頼して使えるようになります。


4. まとめ

今回は、セマンティック検索の仕組みと、検索精度が変わる要因、そして精度向上のポイントについて解説しました。

  • 検索精度が変わる要因

    • クエリのニュアンス(焦点の違い)

    • 短文・長文の文脈量

    • 単語選択による影響

  • 精度向上のポイント

    • データ設計:属性タグや構造化情報でベクトル精度を高める

    • プロンプト設計:クエリに意図や条件を明示する

    • ベクトル活用:重み付けや閾値調整でノイズを減らす

特に、RAG(Retrieval-Augmented Generation)のような応用では、クエリのわずかな表現の違いが結果に大きく影響するため、検索対象のデータ設計やクエリの書き方に注意することが重要です。

最後に、今回紹介した内容はあくまで一例ですが、日常の検索や実務のシステム設計に応用することで、セマンティック検索の精度は確実に向上します。短文クエリでも精度を安定させる工夫や、意図を明確にした長文クエリの活用など、ぜひ実際の検索設計に取り入れてみてください。

 

以上、最後までご愛読いただき
ありがとうございました。

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