【Microsoft Azure】API管理?意外と知られていないAPI Managementをご紹介!Part1

こんにちは、MS開発部の渋谷です。
みなさんは、APIを活用していますか?もちろん、様々なサービス間の連携や昨今では生成AIの機能をAPI経由で利用することも多いと思います。そんなAPIですが、その数はどんどん増えていくばかりでAPI利活用をする場面は非常に増えてきました。しかし、APIの数が増え、システムが複雑化するにつれて、「誰が、いつ、どのようにAPIを使っているのか」「セキュリティは万全か」「安定して稼働しているか」といった管理の課題が深刻化します。
Azure API Management(以下、APIM)は、こうした課題に対する一つのソリューションです。APIMは単なるプロキシやゲートウェイではなく、乱立しがちなAPI群を一元的に管理し、セキュリティ、ガバナンス、可観測性を提供するAPIの戦略的コントロールセンターとして機能します。
今回のPart1では、APIMの根幹をなすアーキテクチャ、ビジネス要件に応じたプランの選び方、そして堅牢なAPI基盤を築くための基本的な構成パターンを掘り下げます。
APIMを支える3つのコンポーネント
APIMは、それぞれが明確な役割を持つ3つのコンポーネントで構成されています。これらはAzure上で完全に管理されるPaaSとして提供され、利用者はインフラを意識することなく機能を利用できます。
- APIゲートウェイ(データプレーン) 全てのAPIリクエストが通過する言わば「玄関口であり、敏腕な警備員」です 。リクエストを受け取り、バックエンドサービスへ転送する過程で、アクセス制御、流量制限、リクエスト/レスポンスの変換、キャッシュといった重要な処理を実行します。ここで定義されたルール(ポリシー)に基づき、APIトラフィックを保護し、最適化します。主な機能は以下です。
- 認証と認可: APIキー、JWT(JSON Web Token)、クライアント証明書といった資格情報を検証します。
- 流量制御: 使用量クォータやレートリミットを適用し、バックエンドサービスを過負荷から保護します。
- リクエスト/レスポンス変換: 設定されたポリシーに基づき、リクエストやレスポンスのヘッダーやボディを動的に変換します。
- キャッシング: レスポンスをキャッシュすることで、レイテンシを改善し、バックエンドへの負荷を軽減します。
- 管理プレーン(コントロールプレーン) APIMサービス全体を設定・管理するための言わば「司令塔」です 。APIの設計、製品としてのパッケージ化、利用ルールの定義、利用状況の分析など、すべての管理操作はここを通じて行われます。Azure Portalや各種コマンドラインツール、API経由で操作できます。主な機能は以下です。
- APIスキーマの定義とインポート(OpenAPI, WSDLなど)。
- APIを「製品(Product)」としてパッケージ化し、利用プランを定義する。
- 認証、変換、流量制御などのポリシーを構成する。
- ユーザー(開発者)とグループを管理する。
- APIの利用状況を分析し、インサイトを得る。
- 開発者ポータル APIを利用する開発者向けの言わば「カタログ」です 。開発者はこのポータルでAPIの仕様書を閲覧し、インタラクティブなコンソールでAPIを試し、利用登録を行ってAPIキーを取得できます 。デザインは自由にカスタマイズでき、自社のブランドイメージに合わせたポータルを構築可能です 。主な機能は以下です。
- 公開されているAPIの発見とドキュメントの閲覧。
- インタラクティブなコンソールでのAPIの試用。
- アカウントを作成し、製品をサブスクライブしてAPIキーを取得する。
- 自身のAPI使用状況の分析。

※ https://learn.microsoft.com/ja-jp/azure/api-management/api-management-key-concepts より引用
APIMサービスレベルの比較
APIMのサービスレベル(Tier)選択は、コスト、性能、利用可能な機能を決定づける重要なアーキテクチャ上の意思決定です。各レベルは特定のユースケースを想定して設計されています 。
近年、Basic v2
とStandard v2
という新しいレベルが登場しました。これらは全く新しいインフラ上に構築されており、デプロイ時間が数分に短縮されるなど、俊敏性が大幅に向上しています 。
特に重要なのはStandard v2
です。従来、社内ネットワーク(VNet)と連携するような高度なセキュリティ機能は、最も高価なPremium
レベルでしか利用できませんでした 。しかし、Standard v2
では、より手頃な価格でVNet統合機能が提供されます。
これにより、多くの企業にとって、セキュアなプライベートネットワーク構成が現実的な選択肢となり、APIM導入のハードルが大きく下がりました。これはAPIMのアーキテクチャ選択における「民主化」とも言える大きな変化です 。
以下は代表的なAPIMのTierを比較した表です。他のTierに関しては公式ドキュメントも併せてご確認ください。
サービスレベル | 主な用途 | SLA | VNETサポート | セルフホストゲートウェイ | Workspaceサポート |
Consumption | サーバーレス、小規模、イベント駆動 | 99.95% | 不可 | 不可 | 不可 |
Developer | 開発、テスト、評価(本番利用不可) | なし | インジェクション | 可 (1ノード) | 不可 |
Standard v2 | 本番環境、手頃な価格でのVNet統合 | 99.95% | VNET統合 | 不可 | 不可 |
Premium | 大規模、エンタープライズ | 99.99% | インジェクション | 可 | 可 |
基本的には、Developerレベルで様々な検証を実施し、本番に求められる要件や非機能要件に応じて、Standardv2やPremiumレベルを検討することが多いでしょう。
ネットワーク構成パターン
APIMをどのようにネットワークに配置するかは、APIのセキュリティ体制を決定づける上で極めて重要です。
- VNetインジェクション:APIMを仮想ネットワーク(VNet)内にデプロイすることで、バックエンドサービスへのアクセスをプライベートに保ちます。
- 外部モード (External Mode): ゲートウェイの入り口はインターネットに公開しつつ、VNet内のバックエンドサービスへ安全に接続します。公開APIでありながら、バックエンドは保護したい場合に適しています 。
- 内部モード (Internal Mode): ゲートウェイの入り口もVNet内に配置し、インターネットから完全に遮断します。社内システムやパートナー企業向けの非公開APIに最適で、最高のセキュリティレベルを提供します 。
- Vnet統合:APIMのインスタンス自体は通常通りですが、バックエンドトラフィックを仮想ネットワークへ流すことができるパターンです。APIMのStandardv2で利用するモードです。Azureに慣れている方であれば、App ServiceのVNET統合をイメージするとよいでしょう。さらに、インバウンドのPrivate Endpoint機能も最近になって実装されたため、Standardv2でも従来のPremiumレベル相当の仮想ネットワークサポートがされるようになりました。
- 推奨構成:Application Gatewayとの組み合わせ:セキュリティを最大限に高めるためのベストプラクティスとして、内部モードのAPIMの前面にApplication Gateway (WAF機能付き) を配置する構成が広く採用されています 。これは、家の玄関の前に、さらに屈強な門番を置くようなものです。Application GatewayのWAFがSQLインジェクションなどの一般的なWeb攻撃を最前線でブロックし、APIMがAPI固有の認証や流量制御を行うという多層防御を実現します。
- セルフホステッドゲートウェイ:この機能を使えば、APIMのゲートウェイ部分だけをコンテナとして切り出し、オンプレミスや他のクラウド(AWS、GCPなど)にデプロイできます 。管理はAzure上のAPIMから一元的に行えるため、どこにAPIがあっても統一されたガバナンスを適用できます。これは
Premium
レベルなどで利用可能な高度な機能です 。
必須ポリシーの実装
ポリシーは、APIMのガバナンス機能の中核をなすものであり、リクエスト・レスポンスパイプラインの挙動をきめ細かく制御します。
- ポリシーエンジン概要: ポリシーは、リクエスト・レスポンスパイプラインの
inbound
、backend
、outbound
、on-error
の各セクションで順次実行されるXMLベースのステートメントです 。 - ポリシースコープと継承: ポリシーは、Global(全API)、Workspace、Product(製品)、API、Operation(操作)の各スコープで定義できます。より広範なスコープで定義されたポリシーの継承と実行順序は、
<base />
要素によって制御されます 。
以下に、基盤となるガバナンスを確立するためによく使われる、主要なポリシーを紹介します。
- 認証 (
validate-jwt
): モダンなAPIセキュリティの基礎であるJWTの存在と有効性を検証します。これにより、認証されていないリクエストをゲートウェイでブロックできます 。例はこちら - 流量制御 (
rate-limit-by-key
): APIの乱用を防ぎ、公正な利用を保証するために、キー(例:呼び出し元のIPアドレスやサブスクリプションキー)ごとに呼び出しレートを制限します。これはバックエンドサービスを保護する上で極めて重要です 。例はこちら - キャッシング (
cache-lookup
&cache-store
): 頻繁にアクセスされる静的なデータに対して、レスポンスをキャッシュすることで、パフォーマンスを劇的に向上させ、バックエンドの負荷を削減します 。例はこちら - 変換 (
set-body
): リクエストまたはレスポンスのボディを変更します。レガシーAPIをモダンな形式に適合させたり、飛行中にデータをエンリッチしたりするのに役立ちます 。例はこちら
他にも様々なポリシーが用意されてますので、公式ドキュメントをぜひ覗いてみてください。
まとめ
Part1では、APIMの戦略的重要性から始め、その核心的な構成要素、アーキテクチャ選択の基盤となるサービスレベル、そして基本的なセキュリティとガバナンスを確立するためのネットワークパターンとポリシーについて紹介しました。
Part2では、AIやフェデレーションといった最先端の機能を紹介し、生成AI時代においてAPIMの利活用方法について紹介します。
以上、最後までご愛読いただき
ありがとうございました。
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