【Microsoft Azure】Azure へのデプロイカタログ?Azure Deployment Environmentsの特徴について解説

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こんにちは、MS開発部の渋谷です。
みなさんは、Azure Deployment Environmentsという製品について聞いたことはありますでしょうか。
近年のソフトウェア開発においては、開発サイクルの迅速化、市場投入までの時間短縮、そして多様なテスト環境の要求がますます高まっています。
一方で、セキュリティ、ガバナンス、コスト管理といった企業としての統制も不可欠です。
このような背景のもと、Microsoft Azureが提供する Azure Deployment Environments (ADE) は、開発チームとインフラ管理チーム双方の課題解決に貢献するサービスとして注目されています。
今回はそんなAzure Deployment Environmentsについて解説していきます。
Azure Deployment Environments(ADE)の主要コンポーネントとアーキテクチャ
Azure Deployment Environmentsを構成する主要なコンポーネントは次の通りです。
- Dev Center:組織全体のプロジェクトや環境設定を管理する最上位のリソースです。カタログや環境の種類といった共通の設定を集約し、複数のプロジェクトで共有できるようにします。(DevBoxと共通)
- Project: 特定の開発チームやアプリケーション、ビジネス機能に対応する単位です 。デベロッパーセンターの設定を継承しつつ、プロジェクト固有の環境の種類やカタログアイテムを定義できます。開発者はこのプロジェクトを通じて環境を作成します。(DevBoxと共通)
- カタログ (Catalog): 環境を定義するためのIaCテンプレート と、それに関連するマニフェストファイル (environment.yaml) を格納・管理するリポジトリ (GitHubまたはAzure DevOps Repos) への参照です 。プラットフォームエンジニアは、ここで承認済みのテンプレートを一元管理し、開発チームに提供します。
- 環境の種類 (Environment Type): 開発 (Dev)、テスト (Test)、サンドボックス (Sandbox)、ステージング (Staging)、本番 (Production) など、開発チームがデプロイできる環境の論理的な種別を定義します 。環境の種類ごとに、デプロイ先のAzureサブスクリプション、使用するマネージドID、付与される権限、適用されるAzure Policyなどを設定でき、環境ごとのガバナンスを制御します 。
- 環境 (Environment): 実際にアプリケーションがデプロイされる、事前構成されたAzureリソースの集合体です 。開発者ポータルやAzure CLIを通じて作成・管理されます 。

実際に利用する流れは次のようになります。
- プラットフォームエンジニアによる準備
- デベロッパーセンターを作成し、組織標準のIaCテンプレートを含むカタログ (GitHub/Azure DevOpsリポジトリ) を登録します 。
- 開発、テスト、サンドボックスといった環境の種類を定義し、それぞれに適切なサブスクリプション、マネージドID、適用するポリシー、開発者に付与する権限などを設定します 。
- 開発プロジェクトを作成し、デベロッパーセンターに関連付けます。プロジェクトごとに利用可能な環境の種類やカタログアイテムを指定します 。
- 開発者による環境作成
- 開発者は、開発者ポータル (https://devportal.microsoft.com ) またはAzure Developer CLI (azd) を通じて、所属するプロジェクト内で利用可能な環境の種類と環境定義を選択します 。
- 必要に応じてパラメータを入力し、環境作成をリクエストします。
- ADEサービスによるデプロイ実行
- ADEサービスは、選択された環境定義と環境の種類の設定に基づき、デベロッパーセンターまたはプロジェクトに紐づけられたマネージドIDを使用して、指定されたサブスクリプションにIaCテンプレートを展開します 。
- デプロイが完了すると、開発者は環境内のリソースにアクセスできるようになります。アクセス権限は環境の種類で定義されたロールに基づいて付与されます 。
デベロッパーセンターが組織全体の標準(例えば、共通して利用できるカタログや基本的な環境の種類)を定義する一方で 、各プロジェクトはこれらの設定を継承しつつ、特定のチームが必要とする環境の種類やカタログ内の特定のテンプレートを選択できます 。カタログには承認済みのIaCテンプレートのみが登録されるため、品質とセキュリティが担保されます 。
さらに、環境の種類ごとにデプロイ先のサブスクリプションや付与される権限を細かく定義することで、例えばサンドボックス環境では比較的自由な権限を、本番前環境ではより厳格な権限を付与するといった、環境の目的に応じたガバナンスを実現できます。
Azure Deployment Environments の主なユースケース
オンデマンド開発・テスト環境
開発者が日々のコーディング作業や単体テスト、機能テストを行うために、必要な時に即座に利用できる専用の環境を提供します 。
短期間のプロジェクトや特定のタスクに特化した環境を迅速にセットアップし、タスク完了後は容易に削除できるため、リソースの効率的な利用が可能です。
サンドボックス環境(実験、調査、学習用途)
新しいAzureサービス、サードパーティのフレームワークやライブラリの評価、技術的な実現可能性の検証 (PoC: Proof of Concept)、あるいは新しい開発手法の学習といった目的で、他の環境から完全に隔離された実験場として利用できます。
本番システムや共有の開発環境に影響を与えることなく、自由にリソースを操作し、試行錯誤できるため、イノベーションの促進や開発者のスキルアップに繋がります。
トレーニングやハッカソン用の環境提供
社内トレーニングや技術ワークショップ、ハッカソンイベントなどで、参加者一人ひとりに均一で独立した演習環境を迅速に提供するのに役立ちます 。
イベント終了後は、作成された環境を一括でクリーンアップできるため、管理の手間も軽減されます。
インナーループでのサンドボックス環境としての ADE(個人的におすすめのユースケース)
ソフトウェア開発プロセスは、開発者個人の作業サイクルである「インナーループ」と、チーム全体の自動化されたプロセスである「アウターループ」に大別できます。
ADEは、特にインナーループにおける開発者の生産性向上に大きく貢献すると個人的には考えています。
開発者が新機能の開発、バグ修正、あるいは新しい技術の検証を行う際、他の開発者の作業環境や共有の開発・テスト環境に影響を与えることなく、迅速に独立した「使い捨て」のサンドボックス環境をADEで構築できます。
開発者は、プラットフォームエンジニアが用意した「空のテンプレート」や最小限の構成を持つテンプレートを利用してサンドボックス環境を作成し、その中で自由にAzureリソースを追加・変更して実験を行うことができます。
例えば、新しいデータベースサービスを試したり、特定のネットワーク構成をテストしたりといった作業が、本番環境や他の共有環境を汚染するリスクなしに行えます。
また、環境の作成と削除が容易であるため、試行錯誤のコストが大幅に低下します。
開発者は、アイデアを思いついたらすぐに環境を立ち上げて試し、不要になればすぐに破棄できます。
ADEによるサンドボックス環境の活用は、インナーループの「速度」を向上させるだけでなく、「質」も高めます。
インナーループの主な目的は、迅速なフィードバックループを回し、開発の初期段階でできるだけ多くのバグや設計上の問題を発見することです。
しかし、ローカル環境だけでは、クラウドネイティブなアプリケーションのすべての側面をテストすることは困難です。
例えば、特定のAzure PaaSサービスとの連携、複雑なネットワーク構成、IAM(Identity and Access Management)ロールの挙動などは、ローカルでは完全に再現できない場合があります。
ADEは、実際のAzureリソースから構成されるサンドボックス環境を迅速に提供するため 、開発者はこれらの要素を含むテストをインナーループの中で、より本番に近い形で実施できます。
これにより、アウターループ(CI/CDパイプライン)に進む前により多くの種類の問題を発見・修正することが可能となり、後の工程での手戻りを大幅に削減し、開発プロセス全体の効率を向上させることに繋がるのです。
対象ユーザーごとのメリット
インフラ管理者/プラットフォームエンジニアの視点
インフラ管理者やプラットフォームエンジニアにとって、ADEは環境管理におけるガバナンス強化、運用負荷軽減、コスト最適化を実現するための強力なツールとなります。
- ガバナンスとセキュリティの一元管理: ADEの最大の利点の一つは、環境全体に対するガバナンスとセキュリティを一元的に管理できる点です。プラットフォームエンジニアは、承認済みのIaCテンプレートをカタログに登録し、それらを開発チームに提供します 。これにより、デプロイされるすべての環境が組織のセキュリティポリシーや標準構成に準拠するように構成可能です。
- 環境払い出しプロセスの標準化と自動化による負担軽減: 従来、開発環境の払い出しはインフラチームへの依頼ベースで行われ、時間と手間がかかる作業でした。ADEを導入することで、開発者はセルフサービスで必要な環境をオンデマンドに構築できるようになります 。これにより、インフラチームは個別の払い出し依頼に対応する作業から解放され、より戦略的な業務に集中できます 。環境構築プロセスがテンプレートに基づいて自動化されるため、手作業によるミスが減り、迅速かつ一貫性のある環境提供が可能になります 。
- コスト管理と可視性の向上: クラウド環境のコスト管理は多くの組織にとって重要な課題です。ADEは、環境ごとのコスト追跡機能を提供し、どのプロジェクトや環境でどれだけのコストが発生しているかを可視化します 。また、不要になった環境(特に一時的なテスト環境やサンドボックス環境)に対して自動削除ポリシーを設定することで、リソースの無駄遣いを防ぎ、クラウドコストの最適化を支援します 。
ADEの導入は、インフラ管理者が日々の運用タスクに追われる状態から脱却し、より戦略的なプラットフォームエンジニアリングの役割へとシフトすることを後押しします。環境払い出しが自動化・セルフサービス化されることで 、プラットフォームエンジニアは手動での環境作成や管理業務から解放されます 。
開発者の視点
開発者にとって、ADEは開発環境の入手を容易にし、開発サイクルを加速させ、本来の業務であるアプリケーション開発への集中を可能にします。
- オンデマンドでのセルフサービス環境構築: 開発者は、インフラチームに依頼することなく、開発者ポータルやAzure Developer CLI (azd) を通じて、必要な時に数分で開発・テスト環境を自身でプロビジョニングできます 。これにより、環境構築にかかる待ち時間が大幅に削減され、アイデアをすぐに形にすることが可能になります 。
- 開発サイクルの迅速化と生産性向上: 環境構築がボトルネックとならなくなることで、開発者はコーディング、テスト、デバッグといった本来の開発業務に迅速に着手し、集中できます 。特に、コードを書いてすぐに試すというインナーループ開発においては、試行錯誤が容易になり、フィードバックサイクルが大幅に短縮されます 。
- インフラ知識への依存低減と本来業務への集中: プラットフォームエンジニアによって事前に定義され、承認されたテンプレートを利用するため、開発者は複雑なAzureインフラストラクチャの構成やネットワーク設定、セキュリティポリシーの詳細を深く意識する必要がありません 。これにより、開発者はアプリケーションのロジック開発や機能実装といったコア業務に専念できるようになります。
ADEによってサンドボックス環境 を手軽に利用できるようになることは、開発者トライ&エラーを大いに促進します。
開発者は、新しい技術、ライブラリ、フレームワーク、あるいはAzureの新しいサービスを、他の環境への影響を心配することなく、低リスクかつ迅速に試すことができます。
ローカル環境では再現が難しいクラウドサービスとの連携や、特定のインフラ構成に依存する機能のテストも、開発の初期段階から、より本番に近い形で実施できるようになります。
まとめ
今回はAzure Deployment Environmentsの特徴とメリットについて、開発者の面とインフラ管理者の面から解説しました。
特に開発者からすると、インナーループでのサンドボックス環境という使い方が強力で、クラウドネイティブなアプリケーション開発を進めるにあたって便利に活用できるでしょう。
サンプルのカタログもGitHubにて公開(deployment-environments/Environments at main · Azure/deployment-environments · GitHub)されており、Azure Deployment Environments自体の利用は無料ですので、お手軽にお試しできます。
またMicrosoft DevBoxとの親和性も高く、これからプラットフォームエンジニアリングを始めたいという方の参考になれば幸いでございます。
以上、最後までご愛読いただき
ありがとうございました。
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